平成26年度司法処理状況の概要~賃金不払い事件で逮捕も~

1.概要

 平成26年4月から平成27年3月までの1年間に,東京労働局と管下18労働基準監督署・支署で
は,合計54件の司法事件を東京地方検察庁へ送検した。
送検した事業場の件数は前年度より4件減少し,業種別の内訳では,建設業が22件(40.7%)と
最も多く,次いで製造業が9件(16.7%),接客業が5件(9.3%)であった。
また,違反事項別では,賃金・退職金不払が17件(31.5%),死亡災害等を契機とした危険防止
措置義務違反が12件(22.2%),労災かくしが11件(20.4%)など。

2.違反事項の内容

(1) 労働基準法違反・・・・・・・31 件
  労働基準法に関する違反により送検したのは31件。一番多かったのは、賃金不払の17件であった。その他、36協定に定める時間を超えて長時間労働に従事させた,休日を与えていなかった等労働時間に関するものが4件,割増賃金の不払が4件などであった。
(2) 危険防止措置義務違反・・・・12 件
 労働安全衛生法に関する違反により送検した23件のうち,危険防止措置義務違反が12件であった。そのうち,墜落・転落災害を契機とした送検事案が8件であった。
(3) 労災かくし・・・・・・・・・ 11 件
 休業4日以上の労働災害が発生した場合には,その都度遅滞なく,所轄の労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出することになっている。『労災かくし』とは,労働災害の発生に際し,その発生事実を隠ぺいするため,労働者死傷病報告書を提出しないもの又は虚偽の内容を記載して提出するものである。

3.今後の対応について

 東京労働局及び管下18労働基準監督署・支署では,過重労働による健康障害を発生させた企業等であって違法な長時間労働を繰り返すなど重大・悪質な労働基準法違反の事案に対しては積極的に捜査に着手し,送検手続をとる方針である。

平成26年度送検事例

事例1 労働基準法・最低賃金法違反

 託児所を営むA社は,労働者Bの平成24年1月分賃金17,250円及び労働者Cの同年2月分賃金 80,690 円の合計 97,940 円を所定の各賃金支払期日である同年2月29日,同年4月4日に全額支払わず,もって法で定める東京都最低賃金を支払わなかったもの。 
 労働者14名が不払賃金(合計約 221 万6千円)の行政指導による救済を求め労働基準監督署
に申告に及んでいたが,A社は労働基準監督署の行政指導に従わなかった。 
 A社の代表者は,再三の出頭要求に応じなかったことなどから,逮捕の上,送検された。

事例2 労働基準法・最低基準法違反

 パン製造販売業を営む会社のパートタイム労働者3名(時給900円~950円,1日の所定労働時間6時間)に対し,平成25年12月1日から同月31日までの間,最長で月139時間に達する
時間外労働を行わせ,もって時間外労働協定の延長時間の限度を超える違法な時間外労働を行わ
せていたもの。 
 また,同期間,本来支払うべき時間外労働に対する割増賃金のうち3割程度しか支払っていな
かった(一人当たり最大で約 11 万円/月の時間外手当の不払が発生していた)もの。

事例3 危険防止措置義務違反

 平成25年1月4日,建築工事現場において,外構工事で使用していたドラグ・ショベル(重量:
約1.5トン)が転倒し,17歳の年少労働者がアーム部分の下敷きとなって死亡するという労働災
害が発生した。 
 捜査の結果,労働安全衛生法で禁止されているドラグ・ショベルの用途外使用(荷の吊り上げ)を行い,現場土中に埋設していた既存の雨水溝(重量:約600kg)を除去しようとしたところ,雨水溝の重みでドラグ・ショベルがバランスを崩し転倒したことが判明した。

事例4 危険防止措置義務違反

 平成24年4月20日,大手橋梁工事会社の下請として、工事業者が施工した橋補修工事におい
て、つり足場の朝顔(作業中に足場から資材が落下すること等を防止するために設ける斜めの覆
い)の解体作業中、はしごを立てかけていた朝顔が外側に倒れ、作業中の労働者がはしごととも
に約7.7メートル下の道路上に墜落し死亡する労働災害が発生した。 
 捜査の結果、つり足場の上での使用が禁じられているはしごを用いて作業させたことが判明し
た。

事例5 労災かくし

 個人事業主が下請負人として工事を請け負った,元請会社の支店が施工するマンション新築工
事現場で,使用した年少労働者が平成24年6月21日に同現場の足場解体作業中に部材が落下し
右手三指を負傷して,搬送先の病院で手術等を受けて 8 日間入院し,その後も療養のため休業す
るという労働災害が発生した。 
 この労働災害について,東京労働局で捜査したところ,個人事業主が現場の関係請負人3名と
共謀の上,同現場を管轄する労働基準監督署長に労働者死傷病報告を提出しなかった,いわゆる
労災かくしを行ったことが判明した。 
 元請負人の支店建築部長は,労災かくしの事実を関係請負人らから知らされた後も,労働者死
傷病報告を行うよう指導することなく是正をさせなかったという違反(幇助)が認められた。



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